1 生理的年齢
生理的年齢には
- 骨年齢:手根骨などの化骨状態で発育状態を見る
- 歯齢:歯の萌出年齢と言えばHellmanの分類、石灰化年齢と言えばNolla,Moorreesらの分類がある。
- 形態年齢:身長や体重などで発育状態を見る
- 第二次性徴年齢:初潮や乳房、声変わりなどで見る
- 精神年齢:知能指数(IQ)などで見る
などがある。
2 身体発育の特徴
2-1 出生前
胎生 | 体重(g) | 体長(cm) |
8週 | 4 | 2.5 |
12週 | 30 | 7〜9 |
28週 | 1000 | 35 |
2-2 体重
2-2-1 出生時体重(2005)
共に
2.5kg未満の時、
低出生体重児という
2-2-2 体重の増加
年齢 | 出生時 | 3ヶ月 | 1歳 | 2歳6ヶ月 | 4歳 | 6歳 | 10歳 |
体重比 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 12 |
2-2-3 生理的体重減少
生後
3〜5日の間、一時的に体重が減少して、その後再び増加を始める。減少量は出生体重の
5〜8%(約
150〜200g)である。生後
7〜10日で
出生体重まで回復する。
原因としては以下のものが考えられる。
- 生後1〜2日間は哺乳量が少ない
- 肺、体表面からの水分蒸発(減少した体重の約70%)
- 尿、胎便排泄(10〜20%)
- 身体脂肪消費(10〜15%)
生後
15日たっても回復しないときは異常。
2-3 身長
2-3-1 出生時身長
約
50cm
2-3-2 身長の増加
年齢 | 出生時 | 1歳 | 4歳 | 12歳 |
身長比 | 1 | 1.5 | 2 | 3 |
2-4 頭蓋
2-4-1 頭囲
出生時 | 33〜34cm 胸囲より1cm大きい |
6ヶ月 | 42〜44cm |
1歳 | 45〜46cm |
発育障害を主訴とする患者では特に重要で、
水頭症、
小頭症、
くる病などの診断上重要資料となる。
2-4-2 身長と頭長の割合
年齢 | 新生児 | 2〜4歳 | 4〜7歳 | 11〜15歳 | 15〜25歳 |
身長:頭長 | 4:1 | 5:1 | 6:1 | 7:1 | 7〜8:1 |
2-5 器官 Scammonの臓器発育曲線
Scammonが提唱した、20歳時を100%とした、
リンパ型、
神経型、
一般型、
生殖器型ごとの臓器発育曲線
2-6 発育指数
- Apger指数:新生児の仮死や呼吸循環状態を評価する方法。10点満点で、高いスコアーほど健全。
- Kaup指数:乳(幼)児の体型的判断からその栄養状態、発育状態を評価する方法。
Kaup指数=10 x 体重(g)/身長(cm)*2
- Rohrer指数:学童期以降、成人の発育評価に用いる。
Rohrer指数=1000 x 体重(g)/身長(cm)*3
3 機能発育の特徴
3-1 呼吸
出産直後の鳴き声を
産声といい、呼吸が開始される。新生児の呼吸は
腹式呼吸であり、かつ
鼻呼吸で、
口呼吸はできない。
3-2 言語・発声
出生直後は産声であるが、生後
3〜4ヶ月で意味の無い発声をする。これを
喃語という。
言語の発達は以下に分類される。
1 | 準備期 | 〜1歳 | 喃語や模倣 |
2 | 第1期 | 1歳〜1歳6ヶ月 | 1語文の時期 |
3 | 第2期 | 1歳6ヶ月〜2歳 | 2語文命名期 |
4 | 第3期 | 2歳〜2歳6ヶ月 | 時称の使い分け |
5 | 第4期 | 2歳6ヶ月〜 | 主文と従属分 |
3-3 運動 7段階
時期 | 3ヶ月 | 7ヶ月 | 10ヶ月 | 9〜14ヶ月 | 14〜15ヶ月 | 2歳 | 5歳 |
運動 | 首が据わる | 座る | 這う | つかまり立ち | 独り歩き | 歩行熟練 | 基本的運動熟練 |
3-4 情動
5歳くらいまでに情動の分化は成人のそれと同様となる。
恐怖や不安は
6ヶ月頃に現れ、
1〜2歳までは
物理的な刺激や身辺の
具体的な刺激に対するものであり、
2〜3歳までは
視覚的、
感覚的なものであり、
具体的、
直接的なものである。この種の恐怖は
4歳頃には
強く、
5歳では
少なくなる傾向にある。
- 新生児:興奮
- 3ヶ月:快と不快が分化
- 6ヶ月:不快から、怒り、嫌忌、恐れが分化
- 1歳:快から、愛情、得意が分化
- どんどん分かれていって、5歳で完成
小児の情動の特徴には以下のものがある。
- 情緒の持続時間が短い
- 強烈で爆発的である
- 一過性である
- 情緒の現れる頻度が高い
3-4-1 泣き
小児の泣きの種類には以下のものがある。
- 強情泣き
- おびえ泣き
- 痛がり泣き
- 補償泣き
3-4-2 かんしゃく
かんしゃくは
2歳頃から現れ始め、
3〜4歳で最も
多く、
9歳頃まで続くが、その後は
少なくなる。
12〜13歳以降はほとんど現れなくなる。
4 小児の生理的特徴
4-1 原始反射(新生児反射)
原始反射は臨床的に下記の診断に用いられる
- 新生児の成熟度の判定
- 脳障害の有無の判定
- 末梢神経障害の診断
- 原始反射 基本的に生後3ヶ月で消失
- Moro反射
- 匍匐反射
- 起立反射
- 把握反射
- Babinski反射 1年ほどは伸展で、後に屈曲
- ほ乳に関わるもの
- 追いかけ反射:刺激のある頰側へ顔を向ける反射
- 捕捉反射 生後6ヶ月で消失する:口唇と舌で乳首を捉える反射
- 吸綴反射 生後6ヶ月で消失する:乳首を吸う反射
- 舌突出反射 生後6ヶ月、離乳時期で消失する:乳首や指のような突起物以外の固形物が口の中に入ると、舌で排除しようとする反射。
- 後天的
- 飛び込み反射
- ほ乳に関わるもの
- 嚥下反射:乳汁を食道の方へ送る反射
卒乳:歯科では6ヶ月〜1年を推奨。小児科では1年〜1年6ヶ月〜2歳
4-2 生理的特徴
4-2-1 体温
成人に比べ
高い
1日の高低差は
0.6〜0.8℃
容易に周囲に影響される。理由としては、以下がある。
- 体温中枢の機能不全
- 汗腺発育不十分
- 体表面積が大きい
4-2-2 呼吸
乳児は
腹式呼吸であるが、
10歳頃には成人と同じ
胸式呼吸となる
4-2-3 脈拍と血圧
乳児の脈拍は1分間に
120回あり、成人は
70回ぐらいである。
血圧は年少児ほど
低く、年齢と伴に
増加する。
4-2-4 睡眠
小児の方が
多い
4-2-5 血液
血色素量、
赤血球数は成人に比べ
少ない。
新生児期から
4,5歳頃にかけて、
リンパ球が
好中球よりも
多い。
小児の
全血量は成人に比べ多く、体重の
1/13〜1/14を占めるが、成人では
1/15である。
5 母乳栄養の利点
- 栄養効率が良く、代謝負担が少ない
- 低罹患率、低死亡率
- 腸管局所の受動免疫を与える
- 抗原性が無い
- 心理的安定
6 顎骨、歯列の発育
6-1 脳頭蓋と顔面頭蓋
6-3-1 脳頭蓋の容積
- 新生児:24%
- 6歳児:92%
- 12歳児:97%
6-3-2 脳頭蓋と顔面頭蓋の容積比
新生児 | 8:1 |
2歳児 | 6:1 |
6歳児 | 5:1 |
成人 | 2:1 |
6-3-3 顔面部の成長の割合
以下の順で成長する。
幅:56%→
高さ:38%→
深さ:41%
6-3-4 泉門
1 | 小泉門 | 矢状縫合
ラムダ縫合 | 2〜3ヶ月 |
2 | 前側頭泉門 | 鱗状縫合
冠状縫合 | 6ヶ月〜1年 |
3 | 後側頭泉門 | 鱗状縫合
ラムダ縫合 | 1年〜1年6ヶ月 |
4 | 大泉門 | 前頭縫合
冠状縫合
矢状縫合 | 1年6ヶ月 |
6-3-5 泉門の閉鎖の異常
大泉門の早期閉鎖
- 小頭症
- 狭頭症(Apert症候群、Crouzon症候群)
泉門の閉鎖遅延
- 化骨障害
- 水頭症
6-3-6 頭蓋底の軟骨結合部での化骨時期
1 | 蝶形骨間軟骨結合 | 出生時 |
2 | 蝶篩骨軟骨結合 | 7歳 |
3 | 蝶後頭軟骨結合 | 18〜20歳 |
6-2 上顎骨の成長
1 | 上顎骨体 | 外側表面骨添加
内側表面骨吸収 | 三次元的拡大 |
2 | 前頭上顎縫合
頬骨上顎縫合
側頭頬骨縫合
翼突口蓋縫合 | 縫合部の骨新生 | 前下方への移動 |
3 | 正中口蓋縫合 | 縫合部の骨新生 | 側方への拡大 |
4 | 上顎結節後縁 | 骨添加 | 後外側への拡大 |
5 | 歯槽突起部 | 歯槽骨添加 | 高さの増加 |
6-3 下顎骨の成長
1 | 下顎骨体 | 外側表面添加
舌側部の骨吸収
正中縫合部の膜内性化骨 | 三次元的拡大 |
2 | 下顎枝 | 後縁:骨添加
前縁:骨吸収 | 後方への拡大 |
3 | 関節突起部(下顎頭) | 軟骨性骨添加 | 前下方への移動 |
4 | 歯槽突起部 | 歯槽骨添加 | 高さの増加 |
6-4 生理的歯間空隙
生理的歯間空隙には
霊長空隙と
発育空隙がある
- 霊長空隙:上顎のBC間と下顎のCD間にできる空隙で、この空隙には対合するCが咬合する。
- 発育空隙:乳歯列弓全般に見られる霊長空隙以外の生理的歯間空隙をいう。
6-5 ターミナルプレーン
第2乳臼歯遠心面の前後的関係で判断する。
- 垂直型:最も多く、全体の78%を占める。
- 近心階段型:下顎の遠心面が近心にある。
- 遠心階段型:下顎の遠心面が遠心にある。
6-6 乳歯歯列の形態
上顎:
半円型
下顎:
半円型または半楕円型
6-7 リーウェイスペース
側方歯列の近遠心的幅径の和のこと。乳臼歯列の方が
大きい
上顎で:
1mm
下顎で:
3mm
6-6 切歯の交換が性状に行われる為に必要な歯・歯列・顎の成長発育について述べよ
- 正常な乳歯根の吸収
- 高径永久歯胚の位置異常が無いこと
- 1本の永久歯が萌出する為に、2本の乳歯が脱落しないこと
- 上下顎共に、中切歯が側切歯より早く萌出すること
- 上下顎の同名歯の萌出に極端に差異がないこと
- 歯数の異常がないこと
- 顎の成長が十分であること
- ほぼ左右対称に交換すること
7 発育異常
7-1 着色歯における内因性の原因
- 重症新生児黄疸や先天性胆道閉鎖症による血中ビリルビンの増加:ビリルリンの酸化物である緑色のビリベルジンの色素が歯質に着色する。酸化の程度により青、紫、黄色を呈する。
- ビタミンK欠乏による新生児メレナや血液不適合の既往のある患児:緑がかったものから黄色まであるが、一般的に青色を呈する。
- ポルフィリン症:ポルフィリンの沈着によってピンク色、または赤、暗褐色を示す。
- テトラサイクリン系抗菌薬を妊婦や小児が長期間服用した場合:蛍光を伴う黄色から灰褐色を呈する。
- 外傷により歯髄内出血から象牙細管内に血色素が侵入した場合:ピンク、赤色から、歯髄壊死によって灰褐色を呈する。
- 基質形成や石灰化の異常、歯の形成異常:淡黄色から褐色まで様々な色
7-2 歯冠の形態異常
- 巨大歯:歯冠の大きさが異常に大きいもの。
- 矮小歯:歯冠の大きさが異常に小さいもの。特に切縁部で萎縮が大きいものを、円錐歯、栓状歯とも言う。
- 癒合歯:複数の歯が象牙質やエナメル質により癒合したもの。歯髄腔は連合している事が多い。
- 癒着歯:複数の歯がセメント質で癒着しているもの。歯髄腔は連合していない。
- 双生歯:1つの歯胚が分裂し、複数の歯となるもの。
- 陥入歯(歯内歯):歯間部の象牙質とエナメル質が歯髄腔内に深く陥入しているもの
- ハッチンソン歯:先天性梅毒に見られるもの
- 異常結節・隆起:中心結節やカラベリー結節など、歯冠にある異常な結節や隆起
8 小児の臨床における対応
8-1 行動変容による対応法
- 系統的脱感作法:慣れによるリラックス
- オペラント条件付け法:アメとムチによる制御
- トークンエコノミー法:ご褒美をあげる
- レスポンスコスト法:ご褒美を取り上げる
- モデリング法:他の小児を並べ、真似させる。
8-2 笑気吸入鎮静法
8-2-1 笑気吸入鎮静法の利点
- 歯科処置に対する不安感、恐怖感、緊張感を取り除く
- 疼痛閾値を上昇させる
- 唾液腺の分泌を抑制する
- 嘔吐反射を抑制する
- 治療に対するストレスを減少する
- 局所麻酔の中毒を防ぐ
8-2-2 笑気吸入鎮静法の欠点
- マスクが治療の障害になる
- 完全な無痛状態を得る事ができない
- 鼻呼吸のできない患者には使えない
- 治療に全く協力できない心身障害児、不協力時、乳児では効果が上げられない
9 小児の齲蝕と予防
9-1 乳歯齲蝕の一般的特徴
- 罹患性が高い
- 進行が非常に速い
- 環境要因の影響を受けやすい
- 齲蝕発症に独特の年齢的変動がある
9-2 幼弱永久歯が齲蝕に罹患しやすい理由
- 歯質が未成熟
- 裂溝の石灰化が不十分
- 裂溝が深い
- 裂溝が複雑
- 対合歯と咬合していない時期が長いことから自浄作用が悪い